僕は部屋のかたすみで、ひざを抱えてカーメン・マクレエの歌う AS TIME GOES BY を聴いていた。どうでもいい夏の黄昏時だった。残照が低い角度でアパートの部屋にさしこみ、あなたの横顔を染めあげている。それが記憶の中に残っている彼女との最後の光景だった。
人は死ぬ。必ず。そして此岸と彼岸をしなやかに行き来する。思い出だけが残滓となって心の襞に降り注ぐ。僕は残されたラビリンスの街であなたの頬の輪郭を夢の中でなぞり、安堵する。しかしそれさえも、陽射しで焼けた印画紙のようにやがて陰影が薄れはじめてゆく。
夏が終わるように。
Posted by kage at February 29, 2004 12:37 AM | TrackBack