駅のポスターの中で満開の桜がゆれていた。 あなたがいつか見たいと言った高遠の桜だった。 押し流されてゆく人波の中でそこだけが艶やかだった。 日常のうねりに身をまかせているうちに、また桜の季節が巡ってきた。
墓守の女将が言う。
「桜の花を見て旅立つ人は幸せですよ」
「西行ですか」
女将は少しはにかむように微笑んだ。
僕は向きなおって花を捧げた。 春、彼岸。どこかで子供の声がした。